私たちは今、甘く、滑らかで、幸せをもたらす「食べるチョコレート」を当たり前のように楽しんでいます。
しかし、その主原料であるカカオの歴史は数千年にも及び、古代文明においては、現代とは全く異なる形で利用され、時には「通貨」として扱われるほどの極めて高い価値を持っていました。
ここでは、遥か紀元前から始まり、新大陸からヨーロッパへ渡り、そして現代の形へと進化していった、チョコレートとカカオの奥深い歴史を紐解いていきましょう。
カカオの起源は5000年以上前

チョコレートの原料であるカカオは、人類と非常に長く深い関わりがあります。
その起源は、紀元前3500年(およそ5500年前)にまで遡り、エクアドルですでに食用として摂取されていました。
神秘の力を持つカカオ豆は「通貨」だった
14世紀に建国されたアステカ王国の記録では、カカオは「神秘的な力を持つもの」として認識され、儀式での献上品、薬、貢物、交易品など、さまざまな用途に使われていました。
通貨としての価値を持つカカオを味わえたのは、王族などの特権階級、または戦士など、特別な人々だけでした。
カカオは「力を与える」もの、あるいは「神様の食べ物」として捧げ物にも利用されていました。
スペイン王侯貴族による独占と甘味化
カカオがヨーロッパに初めて持ち込まれたのはスペインでした。
1521年にアステカ帝国を征服したスペイン人のフェルナン・コルテスが、皇帝が愛飲していたチョコレートを目の当たりにし、スペイン王のカルロス1世に献上しました。
当初、スペインに伝わったチョコレートは、薬や滋養のために飲まれていましたが、アステカ独特の唐辛子などが入ったドリンクは、スペイン人の口には全く合いませんでした。
そこでスペイン人は、カカオドリンクに蜂蜜や砂糖を入れて甘くする工夫を施しました。
甘くなったチョコレートは、スペインの貴族社会に驚きと感動をもたらしました。
次第に砂糖が一般化するにつれて、チョコレートにも砂糖が入れられるようになっていくのです。
「飲む」ものから「食べる」ものへ!近代チョコレートの技術革新

18世紀半ばに起きた産業革命が進む中、19世紀に入ると、チョコレートは飲み物から「食べるもの」へと劇的に変化を遂げ、近代チョコレートの基礎となる技術が次々と誕生しました。
ココアパウダーとダッチング製法の誕生
1828年、オランダの化学者ヴァン・ホーテンが圧搾機でカカオから脂肪分(ココアバター)を除き、水に溶けやすいココアパウダーを発明しました。
さらにアルカリ処理による「ダッチング製法」で酸味や渋味を抑え、まろやかな味わいと深い色合いを実現しました。
食べるチョコレートの登場
1847年、イギリスのジョセフ・フライがココアバターを砂糖入りカカオパウダーに混ぜて固形化に成功し、世界初の「食べるチョコレート」が誕生。
これによりチョコレートは飲料から食品へと進化しました。
ミルクチョコレートの完成
スイスのネスレが1867年に粉ミルクを開発し、1879年にペーターがそれを加えてミルクチョコレートを完成。
粉ミルクにより油分との分離を防ぎ、クリーミーでまろやかな味わいを実現しました。
コンチェによるなめらかさの革新
1879年、ルドルフ・リンツが「コンチェ」を発明。
長時間撹拌することでチョコレート粒子を極限まで細かくし、とろけるような口どけを実現。
風味や流動性も向上し、現代チョコレートの品質基盤が確立されました。
歴史を知るともっと深まるチョコレートの味わい

チョコレートの歴史は、紀元前3500年頃から始まった数千年にも及ぶ壮大な物語です。
私たちが今日、気軽に手に取ることができる甘くておいしいチョコレートは、古代文明からヨーロッパ、先人たちによる絶え間ない技術革新の結果、実現したものです。
この奥深い歴史と文化の理解を深めることで、普段何気なく食べているチョコレートも、また違った深い味わいを感じさせてくれるでしょう。

